BIWA-YOU

『琵琶謡』とは、徒然を謡うこと。写真と、日々思うことを。      そして、できるならば詩や小説も書き綴りたいと思いつつ・・・。

Black & Red Stars ―帰還― 1

Black & Red Stars ―帰還―

■1■ 記憶データに存在しない認識

(1)
彼と出会った瞬間、言葉にならなかった。
私が彼を“知っている”からだ。
高揚感が全身を痺れさせた。
幸せという感覚とはこれかと理解もした。
一方で、脳に記録されている範囲以外で彼を“知っている”という事実に、私は底知れない不安を抱いた。
ただ、その不安が気にならないほど、彼が存在することの安心感の方が大きかった。
―この人の存在のために私はある―
覆しようもない事実だと、心が告げていた。

――1時間前。
生命維持溶液に満たされたカプセル内で彼女は自分を認識した。
長い眠りが終わり、目覚めた、と。
静かに溶液が排出されていった。宙に浮いていた身体がゆっくり沈み、つま先が底に着くと、程よい熱さのシャワーが溶液を洗い落としはじめた。温風が身体を乾かし切ると、分厚いカプセルの蓋は直角にまで開いて止まった。
彼女は空気を吸った。違和感はない。そして、ゆっくりと目を開けた。
間接照明で照らされた狭い室内はうす暗かった。周囲を見渡す。何もない壁の中に一か所だけ棚があり、衣服が置かれていた。白のサマードレスに下着、ストッキングに靴。それらを着終わり振り返ると、壁には出口が現れ明滅する誘導灯が見えていた。
部屋の外には金属壁の無機質な長い廊下が続いていた。空気の冷たさを彼女は感じた。
柔らかい誘導灯の光に導かれながら十数メートルも進むと、四角い空間から明るい光が漏れ出していた。
鏡に囲まれた椅子ひとつの部屋。
彼女が入ると入り口は消え、彼女は鏡に映る自分を眺めた。白い肌、青い瞳、金髪。
『髪を切ります。どのくらいの長さにしますか?』
コンピュータ音声が鳴った。
  メリサ目覚めcut
髪の先を見るとそれは身長を超えて床についている。
「…腰の長さに。前髪は眉のあたりで切って」
『椅子にお座りください』
天井や周囲から数本のロボットアームが降り、手早く髪を切り揃えていった。メリサは立ち上がるともう一度鏡に映る自分を見つめた。ただ自分を認識するために。
(メリサ・マーチス。女性。フランス人。成長年齢18歳)
メリサは自分のデータを再確認した。
右を見ると、入ってきた壁とは反対側の壁に入り口が現れ、誘導灯が光っていた。
進んでゆくと小さな部屋にたどり着いた。――移動エレベーターにメリサは乗った。
しばらくしてエレベーターが止まった。目の前には唐草の透かし彫りから細かく光が漏れ出ている重い金属の扉があった。メリサが足を運ぶとその扉は外に開いた。
今までにない明るい光に目を細める。すがすがしい空気が肺に入るのを感じ、彼女は小さく深呼吸をした。
目が慣れて来てから周囲を見渡す。深い森が広がっていた。奇妙なのは今出てきた扉。扉だけがそこに立っている。後ろはない。メリサはしばしその扉を眺めた。
(生物育成ドームの中心ね。では、目的の場所は東に350メートル)
見知った空間、いや記憶されている空間を彼女は進んでいった。

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コメント


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久々に読んだ気がする

小説…あ、当たり前か(^^ゞ もちろん作品自体は初出なんだから(と、前置きされてたわけだし)久しぶりってのは変(-ω-)?でもやっぱりキャラ的にお久しぶり!なんだよね…えへへ(*^□^*)でも文中の挿し絵がカラーってのは新しい?で、書き下ろし?的にアップしてくんだったら、途中、途中で文が変更になるのはありでしょう(^^ゞ とコメしてから、改めてじっくり読ませていただきます(^-^)

あにぃ | URL | 2011-02-19(Sat)18:15 [編集]


お久しぶりでしょ

そういや、カラーのイラスト添付ってのは、学生時代はないねー。
・・・この冒頭はもう直さないと思う。
死ぬほど直したから(-"-)

morion | URL | 2011-02-20(Sun)00:30 [編集]