BIWA-YOU

『琵琶謡』とは、徒然を謡うこと。写真と、日々思うことを。      そして、できるならば詩や小説も書き綴りたいと思いつつ・・・。

Black & Red Stars ―帰還― 1-(2)

(2)
大きなガラス窓のシンプルなバウハウス様式の2階家が木々の向こうに見えてきた。
白い扉を抜けると食べ物のいい匂いが鼻孔をくすぐる。今までにないざわめきも耳に入ってきた。メリサは自分が安心するのを感じた。
複数の子供の笑い声がする方へ彼女は足を進めた。
ダイニングと思われる空間で、笑いあいながら7、8歳の4人の子供たちがテーブルのそばに集まっている。それぞれ皿やフォーク、スプーンなどを運んでいるようだ。
フォークを持っていた赤茶の髪の男の子がすでにテーブルの上の小皿に乗っていた苺に右手を伸ばそうとしていた。
「だめよ、ヒューイ」
メリサは男の子に笑いかけた。
ヒューイと呼びかけられた子はさっと手を引っ込めて、バツの悪そうな表情をした。
「おはよう。もう朝食の用意が整ったってことは、私は遅れてしまったのね」
半時遅れているという情報がメリサの記憶にあった。
小皿を持っていた女の子たち―1人は黒髪に浅黒い肌、漆黒の瞳、もう1人は淡い金髪に白い肌に淡い青の瞳―が、慌てて皿をテーブルに置くと、メリサのそばに駆け寄ってきた。
「おはよう、お姉ちゃん」「そんなことないわ」「お兄ちゃんに教えてもらった時間通り」「うれしい。今日からお姉ちゃんが私たちに」「勉強を教えてくれるのよね」「でも、一緒に花冠編みもしてくれる?」
メリサのサマードレスに二人は飛び込んでくると、交互に二人は話してきた。
メリサは二人の頬に手を置きながら目線に合うようにしゃがみこむと、にっこり笑った。
「もちろん。花冠を編みましょう、ウィン」黒髪の少女に笑いかける。「でも、勉強もしましょう、エレナ」金髪の少女に笑いかける。
二人はうれしそうに、メリサの首に抱きついてきた。
「そんなうらやましそうな顔するなら、君たちも何かねだったら?」
柔らかなテノールの声がすると、頬を紅潮させていた男の子たちは後ろを振り返った。
明るい薄茶の長い髪を束ね、深い蒼の瞳の男性が笑いながら、スクランブルエッグの入った湯気のあがる大皿を持って奥のキッチンから出てきた。
「やぁ。この子たちに卵を割ってもらったら、思いのほか時間がかかってしまってね」彼はまっすぐテーブルに向かうと皿を置いた。「君の到着は時間通りだよ、メリサ」と彼はメリサに振り向き、自己紹介しようと半回転した。「僕がリック・ルークレンス。よろし・・・く・・・」リックの言葉は途切れていった。そして彼は何度か大きく瞬きをした。深く考えるように。
一方のメリサは、彼が現れた瞬間から女の子たちから離れ、ゆっくりと立ち上がり見つめたまま黙っていた。口を開きかけたのは深呼吸するためで、すぐに口は閉じられた。
二人は見つめあった。
それぞれのそばに立っていた子供たちが、何も言わずに見つめあう二人を見比べ、そして、子供たちだけで頷きあうと。
「わぁ。お兄ちゃんもお姉ちゃんも一目惚れだ~!」と騒ぎ始めた。
それでも二人が反応するには時間がかかった。
「あなたは・・・」
「きみは・・・」
見つめあったまま、やっと口にしたのは相手への疑問の言葉だった。
足を一歩出したままのリックと異なり、メリサは無意識に足を進めた。その頬は気持ちの高揚を表すかのように薄桃色に染まっている。
彼女とは逆に顎を引き、青ざめたリックの頬へと存在を確認するように右手を伸ばした。リックは自分の頬にその手が届く前に、左手で優しく握り取った。触れ合った瞬間、二人は身じろいだが、リックは考え込むように目を閉じ、その手を握ったまま自分の頬にあてた。
その二人の真剣な様子に騒いでいた子供たちは押し黙った。時間が過ぎていった。
「教えて。何故私はあなたを知っているの? もちろん貴方のデータはあるわ。でも私・・・。私。あなたを知っているわ・・・」
メリサはせつなそうな瞳でリックを見つめた。
メリサの質問にリックは目を開いた。その瞳には明らかに迷いが見てとれた。
「判ら・・ない・・・」メリサの手を握るリックの手に力が入る。「僕も君を知っている。・・・そんなこと、ありはしないのに」
リックは少しして大きく息をつき、決意するように手を下すと、メリサに笑い掛け手を離した。
「このことは後にしよう・・・。いいかな?」
優しさのこもった瞳と言葉だったが、メリサは不安げに頷いた。
リックは子供たちを見渡すと、側の男の子たちの頭の上に手を置いて撫ぜた。
「ごめん。ごめん。びっくりしたね? 僕もびっくりしてるんだ。メリサもそうだね」
リックから一歩離れると、メリサは肯定を示すために優しく微笑んだ。
「予想範囲以外のことは、常にあるものなんだよ」リックの瞳にはまだ迷いが見えたが、明るく語りかけながらウィンクした。「君たちが上手に卵を割れなかったのと同じさ」
そのリックの言葉に子供たちはしゅんとした。それと共に嫌な音がする。
「それがスクランブルエッグへのメニューの変更の原因? ね。もしかして何か吹き零れてない?」
そのメリサの言葉に「いけない。スープだ!」リックは慌ててキッチンに戻ると、レンジのボタンを押した。「あーあ…。後で掃除をしないといけないなぁ」と前髪をかき分けながらひとりごちた。

Black & Red Stars ―帰還― 1 記憶データに存在しない認識 (2)

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